27

「ありがとうございます、青海新聞です。はい、え、ロロノアですか? ええ、間もなく配達から戻る時間ですが、ええ、え? ああ——、ええ。はい——」
「ただ今戻りました」
「あっ、今、戻りました。——ゾロ、電話! 早く! お父様が!」

 取る物も取り敢えず、電車に乗った。
 結局、父親の死に目には会えなかった。

 突然だった父親の死は、母親の錯乱を招き、後処理の煩雑さもあって、俺は実家を離れられなかった。
 夜の浅いうちから眠くなり深夜に目が覚める、体は「新聞屋さん」のままに。
 周囲が静まり返った布団の中で目を覚まし、思うのは302号室の家主の事だ。
 突然、連絡もしないで飯を食いに行かなくなって、サンジは、どう思っただろう。

 一週間は不在だった筈だから、八日目。いつもの様に二人分の朝飯を作って、待っていてくれただろうか。残った一人分の朝飯を弁当に仕立てて、出勤しようとドアを開けて、朝刊を発見しただろうか。俺が黙って朝飯を食わずに帰ったと知って、またあんな目をしただろうか。
 朝刊の配達時間に待ち構えて、別の奴が配達しているのを知っただろうか。そいつに、事情を聞いてくれただろうか。そいつに、朝飯を食わせるのだろうか。俺の代わりに集金した別の奴の名前を呼び、名前を呼ばせるのだろうか。


 二週間も朝飯を食わせてもらっておいて、俺はサンジについて、部屋と、名前と、職業と勤め先の屋号しか知らない。
 実家を離れられない俺にとって、連絡する術は無かった。

 手紙を書く事を考えた。正確な住所でなくとも、何とかなるんじゃないか、と。
 ——一体何を書けば?
 ふらりと立ち寄って、朝飯を食わせてもらうだけの、間柄。ただの新聞屋と客と呼ぶには近しいが、かといって友達と呼ぶのも躊躇する様な、ならば他の何と呼べば良いのか分からない、曖昧な関係。
 考えても答えは出ない。そして日は経ち、時機を逸してしまった。

 所長に電話で現状を報告する際、言付けを頼む事も考えた。けれど、一体どう説明したら良いのか、分からなかった。
「客に朝飯を食わせてもらっていた。突然行けなくなった理由を説明してやって欲しい」?
 そんな事、頼める訳が無い。
 どうしてそんな事になっているのか、全く以て、上手く説明出来る気がしない。

 ——「お客様の家に上がり込んではいけません」
 ——「違う、お客様じゃねぇ。…トモダチ、だ」

 俺にははっきり、疚しい気持ちがあったのだから。
 もう、自分の気持ちをごまかす気も失せていた。


 何を幾ら考えても、俺がもう「新聞屋さん」に戻れないのは決定で、俺はもう、サンジの朝飯を食っていなくて、サンジはもう、俺に朝飯を食わせていなくて、サンジと俺の間にはもう、曖昧な関係すら、無い。
 いつか菓子を買いに行く、その約束だけが、果たされずに残ったままだ。

 いずれにせよ、どんな方法であろうと、もう、遅い。
 会えなくなってから、三ヶ月が過ぎていた。
20121219


28

 出張から戻って、明日は一週間振りにゾロに朝飯を食わせてやれると思って、ちょっと笑ってしまうくらい張り切った買い物をしてしまった。いくらなんでも朝からこれは無い、ってメニューと量になりそうで、苦笑しながらメニューを組み直した。
 浮かれている。これは流石に気付かれる。それはちょっと拙いだろうと、気を引き締める。
 殊更普通の朝飯を用意して、ゾロが一週間分の新聞を抱えてやって来るのを待った。
 待ったが、ゾロは来なかった。
 いくらなんでも遅いとドアを開けて様子を窺うと、ドアポストに朝刊が入っていた。脇には一週間分の、取り置いてもらった新聞の束。
 どうして。
 どうしてゾロは、何も言わずに置いて行ったんだ?
 今日から俺が居るって、知っているから、持って来たんだろう?
 楽しみだ、って言ったのに。
 どうして。

 次の日も、その次も、ゾロは来なかった。
 一週間、二人分の朝飯を用意して、晩飯に残った一人分を食べた。惨めな気持ちと一緒に呑み込んだ。
 朝刊の配達を、ドアスコープから覗いた。知らない奴だった。販売所の前を、通って覗いた。ゾロは居なかった。
 多分。ゾロは辞めたんだろう。俺が居なかった一週間の間に。辞める事が決まったのがいつかは知らないが、それを俺に知らせるつもりは無かったという事だ。
 二週間目は、朝飯の用意はしなかった。何の不都合も無かった。

 月末、集金に来たのは、勿論ゾロじゃなかった。
 次の月末も。
 ゾロと朝飯を食べたのは、もう、遠い過去みたいだ。
「前、ここに配達とか集金とかに来てた人、辞めたんですか?」
「…ええ。実家に帰ったみたいで…ひょっとして、何かご迷惑おかけしましたか?」
 ほら。
 ゾロにとって、俺は沢山居る客の一人に過ぎなかった。
 うっかり友達みたいなもんだと思っていた。辞めるなら辞めるで、一言くらいあっても良い程度には、親しくなれたと思っていた。
 一人で浮かれて、馬鹿みたいだ。
「いえ? 全然。そういえば人が変わったな、って思っただけで」
 迷惑をかけられた訳じゃ無い。
 俺が勝手に、親しくなった気になって、浮かれただけで、俺が勝手に、裏切られた気になって、惨めなだけで、——惨めなだけだ。
20121220


29

 母親は次第に落ち着きを取り戻し、けれど実家に戻って欲しいという願いは無下にも出来ず、始末をつけてから、完全に実家に戻る事になった。

 始末をつける。
 販売所にきちんと挨拶をして、きれいさっぱり引き払う事。
 それから。
 サンジとの約束。

 サンジと初めて会ってから一年になる。
 そのたいして多くない接触を、思い出す。この三ヶ月で、散々反芻した思い出を。

 最初の新聞に添えるメモに名前と部屋番号を書いて、語呂合わせか、と思ったら笑えた事。新しい配達先を覚えるのはいつも苦労したが、“302号室”の“サンジ”はすんなり覚えて忘れなかった事。
 初めて顔を合わせた時。若い男が出て来るとは思っていなかったので、少し吃驚した事。外見に反した落ち着いた対応も意外で、印象に残った事。
 なんだか嬉しそうに、925円をぴったり小銭で払う仕草。
 二千円札を出された時。初めて見る実物に、ちょっと嬉しくなってしまって、それを気付かれたかと思ったら恥ずかしかった事。集金を終えた後、悩んだ挙句、こっそり自分の財布から四千円を出して、その二千円札二枚と取り替えた事。
 お釣りを渡す時、触れた手。
 カード払いのお勧めをする気になれなかった事。
 ペンと伝票を差し出した時、触れた指。
 販売店の前の道を、家主が通りかかったのを見た時。目の端に金髪がきらりと映って、あ、と思った事。あ、と思ったら、家主がこちらを見た事。認識されているのかと思い、慌てて、軽く会釈した事。勘違いかも知れないから、軽く。単純に、歩く動きの中で頭が下がっただけかも知れないから。頭を上げてみると、家主はもう通り過ぎた後で、少し残念に思った事。
 同じくらいの上背だと気付いた時、意外だと思った事。
 名前と部屋番号を覚えている事を家主に知られた時、随分慌てた事。
 高熱を出した家主を抱きとめた時。熱かった体。綺麗に並べられたお釣り袋を見た時、堪らない気持ちになった事。自分が二千円札を取り替えた気持ちと、ちょっとでも似ているんだろうかと思った事。あの時は思考がおかしかった、と自分でも思う。鍵なんて預かっちゃ駄目だろう。様子を見に部屋に入るなんて駄目だろう。なんであんな事をしたのかと、自問自答した事。出て来る言い訳を突き詰めて、辿り着いた結論に頭を抱えた事、それから、泣きたくなった事。

 笑った顔。貰った菓子。
 仕事を知った。
 名前を呼び合った。

 浮き立ってしまった心。会えない事に冷やされた心。

 手を握った事、腹の音を聞かれた事、朝飯に呼ばれた事。

 顔を合わせて話し、朝飯を食わせてもらうのが、毎日楽しみだった事。
 渡そうとした食費は受け取ってもらえず、代わりに、約束を貰った事。その約束をまだ果たせていない事。

 これから、その約束を果たしに行く。
 それで、終わりだ。
 この気持ちに、始末をつけに行く。
20121221


30

 駅の改札を出た。販売所とは別の方へ歩く。三ヶ月前にチャレンジした時は目に入らなかった交番に入って、訊く。
「パティスリーバラティエという洋菓子店を探しています」
 お巡りさんは交番を出て、指を指しながら教えてくれた。
「この道をまっすぐ行くと、100m程先の左手に青い看板が出てますよ」
 まっすぐ。100m。左。
「ありがとうございました」

 言われた通りの場所に、その店はあった。店の前に立ち、左を見ると駅が見える。あの時辿り着けなかったのが不思議だ。
 ガラス戸から中を覗く。ショーケースの中にケーキ。棚には焼き菓子。奥には喫茶スペースもある様だ。ちょっと見ただけではサンジは居ない様だが、厨房にでも居るのだろうか。
 足が竦む。けれど、逃げる訳にはいかない。一度深呼吸をして、ガラス戸を開けた。

「いらっしゃいませ」
 ショーケースの奥に居る店員に尋ねる。
「サンジさん、居ますか」
 目を大きく開いた店員は、後ろを振り返った。一部ガラス張りになったその奥が厨房の様だ。目を凝らすと、白衣に身を包んだ人物が作業している。
 サンジだ。
 じっと見ていると、サンジが、こちらを見た。サンジの目が極限まで開いていく。
『ゾロ』
 口の形が、そう動いた様に見えた。忘れられていなかった。ほんの少しの安堵。
 困惑した顔のサンジが、厨房の扉を開け、一直線に俺の前まで来た。
「ゾロ…お前、どうして…」
 声が震えている。
「買いに来た。菓子。これで、見繕ってくれ」
 いつかの茶封筒を差し出す。
 それをじっと見たサンジは、ゆっくりと受け取り、言った。
「辞めたって聞いた。実家に帰った、って」
「ああ。…少し、話がしたい。時間、良いか?」

「後始末して来るから、ケーキでも食べて待ってて」
 サンジは店員に何か指示して、厨房に戻った。
 店員に案内された喫茶スペースで、チョコレートケーキと紅茶を出された。やはり掻き込む様に食べてしまう。熱い紅茶をゆっくり飲む。丁度全部空になった所で、サンジが来た。
「お待たせ」
 サンジは白衣ではなく、普段の格好だった。
「仕事、良いのか?」
「今日はもうやる事ねえし、早退」
 空の皿とカップをカウンターまで運び、店員に「後はよろしく」と声を掛けたサンジに促されて外に出る。
「どうする? 外じゃ暑いし、俺ん家で良いか?」
 首肯くと、サンジは歩き出した。後を追う。

 何から話そう。話したい事はたくさんある。話さなくてはならない事も。それから、話さない方が良いだろう事。けれど、話さなくては終われない事。

「こないだの集金の時さ、ゾロじゃなかったから、二ヶ月連続で。訊いたんだ。辞めたのか、って。実家に帰ったって言われたけど?」
「父親が危篤だって電話があって、急いで帰って。そしたらもう死んでて」
 サンジは、悼む表情でこちらを見た。何か言おうとして言葉が出ないのを制して言葉を継ぐ。
「黙って朝飯食いに行かなくなって、悪かった」
「…いや、良いよ、そんなの。事情が事情だし」
「…待たなかったか?」
「…ちょっと待ったけど。そうだよな、お前、楽しみだって言ってくれてたし、事情があったに決まってるよな。なんで俺、そこまで頭が回らなかったんだろ。馬鹿だな、変に勘ぐって…」
 ぶつぶつ言うサンジは、眉間に皺を寄せている。来ない俺に腹を立てたか傷付いたかして、今、そんな自分に腹を立てているのだろう。無駄にマイナス感情を持たせてしまった。
「嫌な思いさせて、悪かった。連絡する術が、無かった訳じゃ無いのに。気後れ、しちまって」
 そうだ、連絡する術は、有った。どうにでもなった。無かったのは、勇気、だ。
 サンジは、忸怩たる思いで歪んでいるだろう俺の顔を見て、意外そうな顔をした。
「いいんだ。大変だったんだろ? 俺が勝手に、考えが足りなくて、勘違いして、拗ねてただけだから」
 サンジは、いつも俺の心を浮上させてくれる。

 三ヶ月前まで毎日通ったマンションに着く。
「家着く前に、話終わっちゃったな?」
「いや、もっと話したい事があるんだ。良いか?」
「勿論」

 三ヶ月振りのサンジの部屋は、三ヶ月前と何も変わっていなかった。すっかり自覚してしまった今となっては、よくも部屋に二人きりで居れたものだと思う。

「パティシエに渡す土産じゃねえけど」
 少し回復した母に「散々ご迷惑おかけしたから、皆様に差し上げて」と山と持たされた手土産を一包み手渡した。
「吉備団子だ」
「岡山か」
「俺にとってはお袋の味だ。張り切って作ってた」
 冷たい麦茶を出してくれながら、サンジは目を輝かせた。
「お母様の手作り! 早速頂いて良い?」
 包みを開けたサンジは、だったら、と言いながら熱い茶を淹れ、団子を頬張った。素人の作る菓子がプロの舌にそんなに美味く感じる訳はないのに、サンジは「美味い。あったかい味がする」と言って良い笑顔を見せた。

 まず、話さなくてはならない事。
「もう、完全に実家に帰る事になった」
「うん」
「だから、もう、会う事も無いと思う」
「そうか…」
 サンジの顔が、残念そうに見えた。思い上がった誤解だとしても、もう会う事は無いのだから構わない。最後の思い出だ、自分に都合の良い様に解釈すれば良い。

 俺は、喋った。三ヶ月の間、何を思ったか。サンジと喋れないのが、どれだけ苦痛だったのか、改めて知る。
 突然会えなくなる事が、世の中には有る。いつ死ぬかも分からない。ならば伝えられる時に伝えておかなくてはならない、と。
 サンジと会えなかった三ヶ月で、思い知った。

 一年分くらい喋った。
 いくらでも喋りたかった。
 サンジは柔らかく相づちを打ってくれた。その声さえも、得難いものだと知った今は、聞き逃したくなかった。


 最後に、話さない方が良いだろう事。けれど、話さないと終われない。

「俺は、お前の事、好きだった、と思う」
「ごめんな。気持ち悪いよな。親切で、飯まで食わせてやったのに、そんな邪な目で見られてたとか、嫌だよな。本当に、ごめん」
「もう、会う事も無いし、言ったってしょうがないんだけど、でも、どうしても言わないままで居るのは辛くて、俺の自己満足に巻き込んで申し訳ない」
「こんな事、俺が言えた義理じゃないけど、簡単に人を家に上げたりすんなよ? お前、隙だらけで、心配だ」
「じゃあ、ごめんな。ありがとう。お前と会えて、俺、俺は嬉しかった。ありがとう。じゃあ」
 呆気にとられた顔のサンジに、精一杯の笑顔を向けて、席を立った。

 サンジが、俺の手首を掴んで引っ張った。何だ、殴られるか、それも仕方ないか、と思って、サンジを見た。
 初めて見る様な、強い意志を持った目で射抜かれた。

「同じ気持ちだって知って、諦められるかよ」

 サンジは、何を言っているんだろう。
20121222


31

 何度謝る気だろう。
 信じられない様なゾロの言葉に呆然となりながら、そう思った。

 どうやらゾロは、とても鈍い。

 三ヶ月前。ゾロが朝飯を食いに来なくなって、俺は、とても惨めな気持ちになった。惨めな気持ちに一段落つくと、逃げられたんだ、と思い至った。想いに、気付かれたんだ、と。
 そりゃ、逃げる。
 男が邪な気持ちを持って胃袋を掴んで来ようとしてるんだと、男が知ったら、逃げる。当然だ。
 仕事を辞める程怖かったかと、嘲笑が湧き、その後、涙が浮かんだ。

 益々惨めだった。
 たった二週間だったけれど、楽しかった。ゾロも楽しいと言ってくれて、嬉しかった。それが全部台無しだ、と。

 ゾロは、俺の想いなんて、ちっとも気付いちゃいなかった。
 それどころか。

 ゾロが、俺を、好きだった?

 なんだよ、俺も、相当鈍い。
 なんだよ、三ヶ月も、苦しかった。馬鹿みたいだ。


「ゾロ」
 ゾロは、俺に手首を掴まれたまま、俺を呆然と見ている。
「俺が、ただの親切で、飯を食わせてたと思うか?」
「楽しい、って言っただろ?」
「お前だから、食わせたかったし、食って欲しかった」
「分かるか?」
「お前は、謝る事なんか、無い。俺は、——嬉しいんだ」

 一言一言、噛み締める様に言う。
 一言毎に、ゾロの顔が歪む。

「お前も、俺、を?」
「ああ。——好きだ」

 きっと俺の顔も歪んでいる。
 二人して苦しかったなんて、馬鹿みたいだな?
20121224


32

 どうやら俺たちは同じ気持ちだったらしい。
 胸が急速に喜びで満たされた。けれど、それでも遠く離れる事には違いない。
 これからどうしたら良いのか、サンジはどう考えているのか、窺う様にサンジを見る。

「岡山と東京は、遠いけどさ」
 サンジが、店で渡した茶封筒に重ねて名刺の様な物を差し出した。
 青地に白抜きで『パティスリーバラティエ』、その下に、住所が二つ。

 本店:東京都——区—— ——
 支店:岡山県岡山市—— ——

「俺が助っ人に行ってた支店、そこ。そんでさ、今度、俺、支店長になんの」
 サンジがにっかり笑う。
「岡山も広いだろうけどさ、東京とよりは——」
「近所だ」
「え」
「俺ん家、市内」
「え」
 サンジが目を丸くする。
 その様子がおかしくて、思わず笑みが零れた。


「もう、新聞屋さんと客じゃない」
 そう言って、サンジが、笑った。
 その顔は、いつか見た様にやっぱり花の様で。
「菓子屋と客か?」
 俺は精一杯笑ったつもりだったけれど、多分失敗していた。泣きそうだ。
「俺は、お前から金取る気はねえよ。だから、客じゃねえ。お前と俺は——、ただの——男、と、男、で——」
 言い淀んだサンジの後を引き取り俺は言った。
「お友達、ってのは、今更だよな?」
「そりゃ今更だ! ——もうちょっと、その、近しい感じで…」
 サンジはちょっと頬を赤くして、目を逸らした。俺はいよいよ泣きそうで、そんな顔は見られたくなかったから、そっとサンジの頭を引き寄せて、俺の肩に乗せた。
 これでサンジの視界は塞げたけれど、俺がサンジの顔を見る事も出来ない。それは如何にも惜しい様な気がしたけれど、サンジの腕がそっと俺の腰に回ったから、サンジの顔を見るのはまたの機会で良いかと思った。

 もう、会うのに、会いたい以外の理由は要らないのだから。

(完)
20121225


 back
index