婚約 |
「野梨子、覚えてます?」 ふと思い出した様に、清四郎は言った。 「子どもの頃、野梨子は僕に『大きくなったら、清四郎ちゃんのお嫁さんになる』って言いましたね」 「そうでしたわね」 野梨子はさほど驚きもせずに言った。 「子どもの頃、清四郎は私に『野梨子ちゃん、大人になったら結婚しようね』って言いましたわ」 そうだった。 もっと早くに思い出すべきだった。 からかうつもりが、とんでもなくからかわれる結果になりそうだ。 これが悠理だったら、いくらでも丸め込む事が出来るのに。 野梨子では、何倍もの反撃を覚悟せねばなるまい。 清四郎は、覚悟を決めた。 清四郎の顔が、わずかに青くなったのを、野梨子は見逃さなかった。 「反故にして差し上げても、よろしくてよ?」 「…痛み入ります」 おや、これだけ? と思わなくもなかったが、それを口にする清四郎ではない。 見れば、野梨子はくすくす笑っている。 そうだった。言わずとも、気づく野梨子であった。 「こちらこそ」 まだ笑ったまま、野梨子は言った。 十数年来の婚約は、本日無事、円満に解消された。 |
あとがき 2007年9月17日に書いた物に、ちょこっと加筆訂正。 登校中、二人が何を話しているかを妄想するのは楽しいです。 イヤミの応酬とか^^ 可愛かった子供の頃の二人なら、求婚したり応じたりしてる筈!と思っています。(思春期以降のこの二人は、可愛くないコンビだと思う。そして、そここそが可愛らしいと思います。) |
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