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肩紐

 夏が近い。

 基本的にトラッドな服装が多い野梨子も、この蒸し暑い季節はやや軽装になる。
 今日は、殊の外蒸し暑い。

 薄く、透ける素材のトップスはカットソーで、程好く体に沿っている。
 下にはキャミソール。勿論、それ一枚でも着られる様な、しっかりとした造りのもの。
 キャミソールにしては太めの肩紐の、更に下に見え隠れする幅1cm程の肩紐は下着のものだろう。

 そんなものを見たくらいで、どうこうなる程子供じゃないし、純情でもないけれど。

 肩の辺りが不自然に盛り上がっている。肩紐が捻れているらしい。
 反対の肩には、肩紐が無い。肩先までずり落ちてしまっている。

 いつも隙無く、きっちりとしている野梨子にしては、珍しい。

 と思ったら、堪らなくなった。


 背後から、肩に指をやる。野梨子がびくりと肩を揺らした。

「捻れてる」

 肩甲骨の上から捻れを直していく。
 肩の天辺まで直すと、胸元の方は自然と直った様で、それ以上触れている理由が無い。
 指を離すと、ぱちん、と軽い音がした。

 逆の方に手をかける。猶も野梨子は肩を揺らす。

「ずり落ちてる」

 トップスを摘まみ上げ、逆の指で上下二本の肩紐を同時に摘む。体との間に出来た空間の中、肩紐を引き上げる。
 肩の上まで戻して、指を離す。ぱちん。

「あ、ありがとう…」

 用が済んでも動かないでいる俺を不審に思ったか、野梨子はおずおずと振り返る。
「魅録?」
 完全にこちらを向いた野梨子に、告げた。

「んな隙見せんな」
「え?」

 戸惑う様な野梨子の声は、腕の中から聞こえた。

 そんな隙を見せられたら、無理だ。保てない。
 折角直した肩紐は、俺が乱す。
 俺は再び野梨子の肩紐に手を掛けた。




突発的に。

2012.06.23
utae

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