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落ち葉

 野梨子はさっきから、積もった落ち葉を掬い上げては風に乗せてばら撒いている。
 悠理じゃないんだからさあ…
 俺は苦笑しながらも、夕日に輝くそれを、微笑ましく見ている。

 何だか今は、子供の心に還りたくて、実際の子供時分にもしなかったような子供っぽい遊びに興じている。
 それを魅録が黙って見ている。
 どんな顔をしているのか、夕日が眩しくて、ちっともわからない。

 風に舞い上がった落ち葉を、野梨子の視線が追う。
 子供っぽい仕草の中に、女を感じてしまう。
 俺はどうかしている。
 あれは、清四郎の女だ。

 どうして魅録は、何も言わずに付き合ってくれるんだろう。
 期待してしまう。
 馬鹿みたい、私。
 あの手は、悠理のものなのに。

 一際強い風に、野梨子の黒髪が舞い上がる。
 そのまま野梨子が飛んで行ってしまいそうで、俺はつい、腕を伸ばした。

 突然の風に、目を瞑った。
 左腕に衝撃を感じて目を開けると、それは、魅録の腕だった。

 触れた部分から、俺の気持ちが伝われば良いのに。
 はっきり振られる覚悟もない臆病な俺の、口に出来ない想いが。
 傷つきたくなくて、傍に居たくて、忘れようとしている想いが。
 卑怯者だと、嗤うだろうか。

 熱い。
 触れられた腕も、不意に近くなった魅録の眼差しも。
 伝わってしまうだろうか。
 臆病で卑怯な私の、我侭な想いが。
 私だけの傍に居て、私だけを見て欲しいと。
 告げさえしなければ、“私だけ”と思いさえしなければ、それは叶っているのに。

 もう片方の腕で、野梨子を掻き抱きたい。
 左腕が、空を彷徨う。

 魅録の左腕が、私を抱き締めてくれればいいのに。
 魅録の胸に、顔を埋められるといいのに。

 振り切る様に、声を絞り出した。
 強風に煽られて目を瞑った仲間に対する気遣いの振り。
「大丈夫か?」

 飛び出しそうな心臓を、無理矢理宥めて答えた。
「ええ、大丈夫ですわ」
 仲間思いの魅録に、せめて安心してもらわねば。

 何か、言わなくては。
「何だか、悠理がやりそうな事だよな」
 もっと気の利いた事は言えないのか。情けない。
 清四郎なら、何て言うだろう?

 私を見ていても、悠理を思い出しますのね。
 私は、悠理ではないのに。
「清四郎だったら、冷たい目をしますわね、きっと」

 嗚呼。
 俺は清四郎じゃない。清四郎じゃないんだ。

 嗚呼。
 そんな事を言いたいのではないのに。



 風に攫われた落ち葉は、どこへ落ちるか、わからないまま空に舞っている。

 恋は盲目。
 愛しい人の、愛しい人が、誰かすらも、わからない。




あとがき

 2007年10月15日に書いたものに、訂正、加筆。

 何故か二人で居るんですね、これ。公園かな?どういう状況なんだか(爆)
 冷静に読むと、清四郎と野梨子が、魅録と悠理が、それぞれ付き合ってる設定っぽいですね、これ。
 違いますよ? 違うんですよ!
 勝手に、勘違いしてるんですよ、お互い。馬鹿だなあ、もう。もどかしいったら。

 それを作中で分かる様に出来ない自分がもどかしい。
 と、作中の彼らにつられて、ついネガティブになります。

 彷徨わせてないで抱き締めちゃえば良いんだよ!




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