最終登校 |
聖プレジデント学園における、この十五年間の、朝の名物。 その一。高級車オンパレードによる大渋滞(この十五年に限ったことではないが)。 その二。優等生の生徒会長と、そのお隣さんのこれまた優等生による、徒歩通学。 学園の生え抜きの生徒達がまことしやかに語るにはその二人、既に婚約しており、卒業を待って結婚するとかしないとか。 実際には事実無根の噂に過ぎないそれは、一種の願望なのだ。我らが聖プレジデント学園を象徴する、安定感、安心感。 まことしやかに語られるだけの信憑性を漂わせるそれは、然し乍ら、彼らと極親しい仲間の他には知られる事無く、鮮やかに裏切られている。 日常交わされる二人の会話の、何と殺伐としている事か! しかし、今日は。今日だけは。 午前七時三十分。二人はそれぞれ門を出る。 「おはようございます」 交わされる朝の挨拶。 十五年の習慣。 「十五年、ですわね」 「一年、余分に通ってしまいましたね」 「清四郎。私、清四郎と幼馴染で、本当に良かった、と思っていますのよ?」 「おや、奇遇ですね。僕も、野梨子と幼馴染で良かった、と思っているんですよ?」 「まあ」 「清四郎、ありがとう」 握手。 「僕の方こそ、ありがとう、野梨子」 「最初の日でしたわね」 「?」 「悠理」 「ああ。僕の人生最初の挫折ですね」 「でも、悠理が居たおかげで、今の清四郎が有るんですわ」 「感謝しなくては?」 「ええ。感謝しなくては」 「そう言えば、魅録を連れて来たのも、悠理でしたね」 「可憐が美童を連れて来て」 「野梨子が可憐に誘われて、僕を連れて行ってくれた」 「あの日まで、十年」 「あの日から、五年」 今日は、聖プレジデント学園高等部の卒業式。二人は揃って大学部に進学するが、制服は今日で最後。これまでの様に、朝、待ち合わせ連れ立っての通学はしないだろう。 十五年の習慣が、今日で終わる。 ちょっとばかりの感傷と共に。 大いなる思い出と共に。 輝かしい未来と共に。 |
あとがき 聖プレジデント学園の幼稚舎は、二年制だと思います(いくらなんでも、三年制の入舎式、四歳になる齢で、あんなにしっかり喋れる筈は無いと思う)。 という訳で、15年です。2・6・3・3+1年。 登校時間は、勿論捏ち上げ。早めの登校、遅刻なんて以ての外、朝から急ぐなんて真っ平御免。そんな「優等生」な二人が、30分程の道程(これも当然捏造)を和やかに、時に殺伐と会話してきた15年!歴史の重み!でも色恋無し!が、私の清野観です。 卒業生の皆様、そして卒業させた皆様、おめでとうございます! 2011.11.15、12.25、2012.3.2-5
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